ドイツ・ケルン(Köln)在住の日本人夫婦が、海外移住時に実際に行った確定拠出年金の手続きを解説するとともに、2024年6月末時点の評価損益を公開します。
※本記事のコンテンツは2024年6月時点の情報をもとに作成しています。
はじめに
2019年から老後2,000万円問題が話題になり、2024年には新NISA制度が導入され、日経平均株価も史上初の4万円台を達成するなど、日本では投資の話で湧き上がっているようですね。
今回は日本の確定拠出年金制度(企業型・個人型)について、制度の特徴やメリット、留意点などを解説するとともに、すでに制度に加入していて今後海外移住の予定がある方向けに必要な手続きなどをお伝えしたいと思います。
「確定拠出年金制度についてはすでに十分に知っている!」という方は最初の章を飛ばして『海外転出時に必要な手続き』からご覧いただければと思います。
後半では、私たちが実際に保有している運用商品のポートフォリオや現時点の含み益などを公開するとともに、実現した節税効果も算出してみているので、ぜひ最後までお付き合いください。
なお、本記事は普段から経済・金融関連の情報収集に勤しんでいる妻の私によって作成されました。
確定拠出年金(DC)とは
日本の確定拠出年金はアメリカの確定拠出年金制度(401k)を模倣して2021年に制度化されたもので、「企業型」と「個人型」の大きく2種類があります。個人型の方は「イデコ(iDeco)」という愛称でも知られています。
確定拠出年金の特徴
確定拠出年金(DC)は、「企業型」であっても年金資金が企業ではなく従業員個人に紐づく点が、従来の企業年金制度である確定給付企業年金(DB)と異なるポイントになります。
また、確定給付企業年金では従業員に給付される金額が確定している(=Defined Benefit Plan)のに対し、確定拠出年金では拠出する掛け金の金額が確定しており(=Defined Contribution)、受け取れる金額は従業員が自分で選択した運用商品の成績次第ということになります。
また、年金資金が従業員個人に属することから、特定の企業を退職後も転職先の企業やiDecoに移換できる ”ポータビリティ(Portability)” が、確定拠出年金の最大の魅力の1つとなっています。これにより、従業員が特定の企業に依存することなく、生涯にわたって年金資産を形成することが可能となります。
まとめると、確定給付企業年金と比較した場合の確定拠出年金の特徴は次の通りです。
- 年金資金はその企業に紐づく
- 運用先・商品はその企業が選択する
- 掛け金額は企業により適宜調整され、受給できる金額が決まっている
- 中途退職時の年金資産の移換は不可
→基本的に退職時に一時金として受給
- 年金資金は従業員個人に紐づく
- 運用先・商品は従業員各自が選択する
- 掛け金額が決まっており、受給できる金額は選択した運用商品の成績次第
- 中途退職時に年金資産の移換が可能
→長期で年金資産を形成できる
以下、各項目について解説していきます。
- 年金資産の帰属先について、確定給付企業年金は各企業個別の規約に基づき運営されるため企業との紐づきが強いのに対し、確定拠出年金は法制度の段階で資産が従業員個人に紐づくよう設計されています。
- 運用先・商品について、確定給付企業年金では企業がコンサルなどの力を借りるなどして運用先ファンドまで選択するのに対し、確定拠出年金の場合は企業が選択するのは運用管理機関にとどまります。従業員個々人が自身で運用商品やその保有割合を決定する必要があり、ある程度の金融知識が必要となります。
- 掛け金額・受給金額について、確定給付企業年金の場合には受給できる金額があらかじめ決まっているため、従業員にとっては老後の資産計画が立てやすいといったメリットがあります(一方企業側としては、従業員が一定の金額を受給できるよう運用成績が悪い場合には追加で拠出する必要がある、というデメリットがあります)。確定拠出年金において「掛け金額が決まっており」というのは ”掛け金額を自由に変更できない” という意味ではなく ”たとえ運用成績が悪くても追加で拠出する必要はない” ということを意味しています。最低金額の5,000円から一定の上限金額を超えない範囲であれば、1,000円単位で年1回のみ掛け金額を変更することが可能です。なお、掛け金額の上限金額については、企業型かiDecoか、公務員に該当するか、専業主婦(夫)に該当するか、勤務先に確定給付企業年金や厚生年金基金の制度があるか、などの個々人の属性や勤務先の制度によって異なります(上限金額については度々改正されていますので、iDecoの場合はiDecoの加入資格・掛金・受取方法等|iDeco公式サイトにてご自身で最新の情報を取得するようにしてください)。
- 中途退職時について、確定給付企業年金の場合は定年退職者や長期勤続者を除いて基本的に「脱退一時金」として受給します。定年より前に受け取ることができるというメリットがある一方で、中途解約のような扱いになるため金額がそれなりに目減りしてしまうというデメリットがあります。なお、現在は元勤務先の規約が許せば転職先の確定給付企業年金に、または企業年金連合会や企業型DC、iDecoに “脱退一時金相当額” を移換することができるようです(詳細はiDeco加入者で転職・退職された方へ|iDeco公式サイトにてご確認ください)。一方、確定拠出年金の場合は一時金として受け取ることはできないものの、中途解約を経ずに長期にわたって年金資産を大きく成長させることができます。
確定拠出年金に加入するメリット
前項で述べた通り、確定拠出年金には「自分で運用商品を選択できる」「掛け金額が一定」「中途退職時に資産の移換が可能」といったメリットがあります(これらの点は「自分で勉強して運用商品を選ばなければならない」「将来いくら受給できるか未確定」「定年まで一時金として受け取れない」といったデメリットと捉えることもできます)。
確定拠出年金における従業員にとっての最大のメリットはなんといっても “掛け金額が所得控除の対象となる” ことです(この点は確定給付企業年金にも共通するメリットになります)。さらに、掛け金額に加えて運用益も非課税で再投資されるため、長期にわたって複利で年金資産を大きく育てることが可能です。
なお、次の通り、iDecoの場合と企業型DCの場合で所得控除の仕組みが異なります。
iDecoの所得控除の仕組み
従業員が給料の一部をiDecoに拠出すると、その掛け金額は税制上所得とみなされないため、掛け金額にかかる所得税および住民税の支払いが免除されます。結果として、従業員の手取り額が増えます。
日本での所得にかかる税率について、住民税については所得にかかわらず10%程度とおおむね一定ですが、所得税については累進課税制度が採用されています。つまり、高所得であればあるほど給料に対する所得税の割合は高いため、高所得者ほどiDecoの利用による節税効果は大きいということになります。
具体的には、扶養家族なしのサラリーマンがiDecoへ毎月23,000円、年間276,000円を拠出した場合の年間の節税効果は、年収400万円であれば41,400円相当(税率15%)、年収1,000万円であれば82,800円相当(税率30%)になります。
企業型DCの所得控除の仕組み
掛け金額に対して企業と従業員が支払う社会保険料(それぞれ15〜20%程度)がともに免除されるため、企業と従業員の双方がメリットを享受することになります。
確定拠出年金にかかる留意点
一般に、確定拠出年金にかかるデメリットや留意すべき点は下記の5つです。
- 原則60歳(50歳以上で加入する場合は一定期間経過後)まで解約・引き出しが不可
- 加入・移換手数料や運用手数料がかかる
- (企業型の場合)老齢厚生年金の受給額が減額となる
- (iDecoの場合)ふるさと納税の控除限度額が減額となる
- 将来受給時に税金がかかる場合がある
以下、各項目について解説していきます。
- 資金拘束性について、多くの人にとってこれが最大の留意点になりますが、原則として何があっても60歳になるまで引き出すことはできないと覚悟した方が良いでしょう。60歳までの間には、マイホームの購入や子どもの大学進学など、まとまった資金が必要になるタイミングが何度かあることが一般的に想定されるため、節税目的で無理して上限金額まで拠出することはかなりリスクが高いと考えられます。近い将来でまとまった資金が必要になる予定があり、それまでに運用で資産を増やしたい方は、いつでも解約が可能な ”新NISA” を利用するのがおすすめです(ただし、新NISAの利用は国内居住者に限られます)。一方で、逆に確定拠出年金の資金拘束性を利用して、若いうちから余裕資金の一部を毎月少しずつ、節税メリットを享受しながら老後の備えとして蓄えることは有効と考えます。次の章で解説しますが、海外へ移住する際にも一定の要件を満たさない限りは引き出すことはできず、所定の手続きを踏む必要があります。
- 手数料について、国民年金基金連合会に支払う手数料として、加入・移換時に2,829円、掛け金の拠出の都度(通常月1回)105円がかかります。また、事務委託先金融機関に毎月66円の手数料を支払う必要があります。さらに、運営管理機関によっては別途相応の手数料がかかるため、コスト面からはこの金融機関選びが非常に重要になります(この点の重要性については『現時点の評価損益』の章で後述します)。なお、企業型DCの場合は基本的に勤務先企業がこれらの手数料を負担してくれます。また、海外居住者などで追加拠出を行わない場合は、連合会への毎月105円の手数料は生じません。ちなみに、企業型DCのある勤務先を退職する際には6ヶ月以内にiDecoまたは転職先の企業型DCに移換する、あるいは脱退一時金の請求を行う必要があり、それを過ぎると自動的に現金化され、国民年金基金連合会に移換されてしまいます。運用益がない状態でそれなりの手数料が引かれてしまうため、転職時や海外転出時には注意が必要です。
- 老齢年金の受給額について、企業型DCでは企業および従業員双方の厚生年金保険料の支払い額が軽減される分、将来受給できる厚生年金の金額は一般的に減額となります。
- ふるさと納税の控除限度額について、iDecoの利用により所得税および住民税の支払い額が軽減される分、実質負担2,000円でできるふるさと納税の控除限度額は一般的に減額となります。
- 受給時の税金について、確定拠出年金を一括で受け取る場合には退職所得、年金で受け取る場合には雑所得の対象となります。退職所得については勤続年数に応じて一定の金額以下であれば非課税、超えた金額に対しても低めの税率が適用される仕組みとなっており、税制面で大きなメリットが受けられます。雑所得に対しても一定の控除額があり、給与が高い現役時代に給与所得として受け取る場合に比べると一般に税率は低く抑えられます。一括で受け取るか年金として受け取るかで人によっては支払う税金額に大きく差が出るケースがあるため受け取り方法を十分に検討すべきですが、どちらの場合でも完全に非課税とはならない可能性がある点には留意が必要です。
海外転出時に必要な手続き
本章では、1年以上海外に住む予定があり、海外転出手続きをして「非居住者」となる場合の確定拠出年金にかかる手続きについて、実例を交えて解説していきます。
海外転出時の選択肢
海外転出時の確定拠出年金の取り扱いの選択肢は次の3つです。1と3については一定の要件を満たす必要があるため、一般的には2となるケースが多いと考えられます。
- 確定拠出年金に継続加入する
- 確定拠出年金の運用指図者となる
- 確定拠出年金を解約し、脱退一時金を受給する
各選択肢の詳細については、続く項で解説していきます。
海外転出後の継続加入
2022年5月の制度改正により、海外転出後も以下の要件のどれか1つを満たせば確定拠出年金制度に継続して加入する(=掛け金を拠出し続ける)ことができるようになりました。
- 65歳未満の厚生年金被保険者(第2号被保険者)
- 上記第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者(第3号被保険者)
- 日本国籍を有する20歳以上65歳未満の国民年金の任意加入被保険者
つまり、日本の企業に勤めていた人が転勤で海外赴任する場合(その扶養家族も含まれます)、あるいは日本の国民年金を海外転出後も任意で納めている場合は、年齢や国籍要件を満たせば継続加入することができます(詳細は2022年の制度改正について|iDeco公式サイトにてご確認ください)。
ただし、ドイツの企業に勤めていて日本に税金を納めていない方は、所得控除の恩恵はない点には注意が必要です。また、ドイツで稼いだユーロを掛け金にあてたい場合には為替手数料や国際送金手数料などが生じます。さらに、もし老後にドイツで確定拠出年金を受け取る場合、一時金あるいは年金の20.42%が日本で源泉徴収されることになります(翌年に確定申告を行うことで1年分の払い過ぎた税金を取り戻すことが可能です)。
*** 外貨両替や国際送金におすすめの銀行に関しては次の記事をぜひご参照ください ***
なお、継続加入を選択する場合でも、海外転出に伴う住所変更の手続きは必要になります。
運用指図者への変更
日本居住時には毎月掛け金を拠出する加入者であった方も、前項の継続加入の要件を満たさない場合には、すでに保有している商品を継続して運用するものの追加拠出はしない『運用指図者』へと変更する手続きが必要になります。
追加拠出は行わないものの、海外転出後も運用指図者として現在保有している運用商品の一部を売却し、その代金で他の運用商品を購入する「スイッチング」(入れ替え)を行うことは可能です。これにより保有資産の範囲内で運用商品とその保有割合を適宜調整することができます。
なお、海外転出時に勤務先の企業型DCに資産を保有している場合には、まずはその資産をiDecoに移換する必要があります。『確定拠出年金にかかる留意点』で先述した通り、勤務先を退職後6ヶ月以内にiDecoへ移換するか後述する脱退一時金の請求を行わないと、資産が自動で現金化され、国民年金基金連合会に移換されてしまいます。その自動移換や管理にかかる手数料に加え、最終的にiDecoへ移換する際にもまた相応の移換手数料が生じることになります。
脱退一時金の受給
『確定拠出年金にかかる留意点』で先述した通り、制度が年金向けに設計されていることから、年金資産は原則として60歳になるまで引き出すことはできません。ただし、例外的に「脱退一時金」として受給できる場合があります。
脱退一時金の受給要件は2022年5月に緩和されたものの、該当するケースは非常に少ないと思われます。脱退一時金の受給要件の詳細は、企業型DC、iDecoともに企業を退職された方|NRKにて確認いただけます。
運用指図者となる場合でも毎月一定のコストがかかるため、運用資産が極端に少ない場合には資産の成長スピードよりもコストが上回り、最終的に資産額がゼロとなってしまう可能性があります。一方で、ある程度の資産がある場合には一時金として受け取るよりも運用指図者として運用を継続した方が受給金額が大きくなる可能性もあるため、要件を満たす場合でも脱退の是非は一度検討すべきと考えます。
iDecoへの移換手続きと運用指図者への変更
本項では、実際に私たちが2022年春に海外転出した際に行った手続きを簡単に紹介していきます。
夫の場合は、海外転出時にiDecoの資産はなく、元勤務先の企業型DCの資産のみを保有していました。一方私は、iDecoと企業型DCの両方に資産を保有していました。私たちの場合は海外転勤のケースではなく、また当時は制度改正前で継続加入の選択肢はありませんでした。結果として、企業型DCの資産をiDecoへ移換し、立場を運用指図者へと変更する必要がありました。
したがって、どちらも上記2のケースに該当しますが、夫(実例①)と私(実例②)のケースに分けて実際に行った手続きの流れを説明していきます。当時と現在では提出書類名などが異なる場合がありますが、その点はご了承ください。
実例①:三菱UFJ銀行へ移換するケース
夫の場合は、元勤務先の企業型DCの運営管理機関であった三菱UFJ銀行のiDecoに移換することとしました。ちなみに三菱UFJ銀行に紐づく記録関連運営管理機関(資産の記録・管理を行う機関)は日本レコード・キーピング・ネットワーク(NRK)です。
夫が退職する半年前に元勤務先が企業型DC制度を導入したため、合計の拠出金額が18,000円と非常に少ない状況でした(全員強制加入の制度で、退職の予定があっても加入するしかありませんでした)。脱退一時金を受け取ることを検討しましたが、当時の要件を満たせず、泣く泣く運用指図者に変更することとなりました。
なお、移換前に三菱UFJ銀行に電話して確認しましたが、万が一運用資産が尽きてしまった場合でも、運用が終了するだけでその後も口座管理手数料が発生するようなことはない、とのことでした。もともと拠出金額の18,000円も企業型DCの制度導入後に給料に上乗せして支給されたものであったため、安心して移換手続きに入ることができました。
具体的な手続きとしては、まずは「加入者資格喪失届」を提出する必要がありました。基礎年金番号の記入が必要ですが、これは年金手帳などで確認できます。資格喪失理由は「01: 日本国内に住所を有しなくなったため」を選択しました。住所欄には、行き先の国名と、今後受け取るいくつかのお知らせを受け取るために日本国内の住所(実家の住所)も記入する必要がありました。合わせて、身元確認書類として「住民票除票の写し」を添付しました。身元確認書類は「出国予定先が記載されている住民票の写し」または「在留証明書」(現地の大使館などで取得可能)でも良いようです。
その後、約1ヶ月後に「確定拠出年金の加入資格喪失のお知らせ」が届きました。iDecoのお手続きの流れ|三菱UFJ銀行の「移換手続き」にしたがって、iDeco口座を開設し、移換の手続きをしました。手続き後1ヶ月後に「ユーザーID・商品登録完了のお知らせ」を受領し、手続きは完了しました。
なお、同じ銀行間での移換のため、運用商品はそのまま引き継ぐことができました。
実例②:楽天証券へ移換するケース
私の場合は、元勤務先が企業型DCを導入する前から楽天証券のiDecoを利用していたため(企業型DC導入後は企業型DCとiDecoの両方に拠出していました)、海外転出時には楽天証券のiDecoに移換することにしました。ちなみに楽天証券に紐づく記録関連運営管理機関は日本インベスター・ソリューション・アンド・テクノロジー(JIS&T)です。
手続きの流れは基本的に実例①と同じですが、私の場合は運用管理機関を三菱UFJ銀行から楽天証券に変更したため、運用できる商品ラインナップが大きく異なり、移換と同時に運用商品を選択し直す(=スイッチングする)必要がありました。これは運用商品と保有割合を指定するだけなので簡単にできます。
さらに私のケースが特殊だったのは、元勤務先の退職時に1ヶ月以上の有給休暇を取得したのですが、その休暇中に海外転出したことです。海外移住後に法律上の退職日が訪れ、海外居住中に確定拠出年金の加入資格が喪失するケースになります。この件について楽天証券に電話で確認したところ、「加入者資格喪失届」が退職日の翌日(=加入者資格喪失日)以降に届くようにして欲しい、とのことでした。日本在住の親に頼み、退職日以降にポストに投函してもらうことになりました。
なお、楽天証券のiDecoへの移換手続きの詳細は企業型からの移換申込方法|楽天証券にてご確認いただけます。
【実績値公開】現時点の評価損益
それではいよいよ、夫(実例①)と私(実例②)が実際に保有している運用商品のポートフォリオとその現時点の評価損益を公開します!
実例①:加入期間が半年のケース
前提:運用商品・期間・金額
先述した通り、夫が退職する半年前に元勤務先が企業型DCを導入したため、加入期間は6ヶ月、拠出金額の合計は月3,000円×6ヶ月=18,000円でした。また、iDecoへ移換後の運用期間は2年半ほどです。
運用商品とその保有割合(簿価構成比)は次の通りです。スイッチングは一度も行っていません。
- 01690:eMAXIS 先進国リートインデックス(40.0%)
- 01687:eMAXIS 先進国株式インデックス(30.0%)
- 01688:eMAXIS 先進国債券インデックス(30.0%)
現時点の評価損益
結果発表ですが、2024年6月末時点の評価損益は次の通りです。
商品名 | 取得金額 | 時価評価額 | 時価構成比 | 評価損益 | 評価損益率 |
---|---|---|---|---|---|
eMAXIS 先進国リート インデックス | ¥6,029 | ¥7,516 | 62.0% | ¥1,487 | 24.7% |
eMAXIS 先進国株式 インデックス | ¥4,521 | ¥4,196 | 34.6% | ▲¥325 | ▲7.2% |
eMAXIS 先進国債券 インデックス | ¥4,521 | ¥0 | 0.0% | ▲¥4,521 | ▲100.0% |
運用指図無し | ー | ¥403 | 3.3% | ¥403 | ー |
未算入手数料 | ー | ー | ー | ▲¥2,956 | ー |
合計 | ¥15,071 | ¥12,115 | 100.0% | ▲¥5,785 | ▲38.4% |
上記の「運用指図無し」とは、おそらく現金を指します。毎月の管理手数料などを支払うために運用商品の一部を売却して現金化していると考えられます。おそらく先進国債券インデックスが相対的に利益率が低かったため優先的に取り崩され、時価評価額がゼロになっていると考えられます。
トータルの評価損益率はマイナス38.4%と大きくマイナスになっていますが、これは選択した運用商品が悪かったというよりは、合計拠出金額が少なすぎたことと、手数料が高すぎたことが原因と考えています。移換手数料や毎月の事務委託先金融機関に支払う手数料に加え、運営管理機関が三菱UFJ銀行の場合は運用指図者として毎月260円を支払う必要があります(一方で楽天証券の場合は無料です)。小さく見えるかもしれませんが、iDecoに移換してからの2年半で合計7,800円になるので、この手数料が無ければ資産はプラスで維持されていたことになります。
このままいけば、運用資産はおそらくあと数年でゼロになると思われます。夫のケースは、まさに運用管理機関の選択がとても重要ということがわかる例であると思います。
実現した節税効果(推定値)
企業型DCの場合は拠出金額に対する約15%の社会保険料が控除されるため、下記の通り夫の場合は給与として受け取る場合に比べて約2,700円の節税効果を得られたと推定されます。
18,000円(合計拠出金額)× 約15%(所得控除率) = 約2,700円
ただし本ケースでは最終的に運用資金がゼロとなる可能性が非常に高いため、たとえこの節税効果を得られたとしてもトータルで見れば大きくマイナスです(この18,000円は元勤務先の企業型DC導入後に追加で支給されることになったものなので、特にダメージは受けていないです笑)。
実例②:加入期間が3年以上のケース
前提:運用商品・期間・金額
先述した通り、私の場合は以前より楽天証券のiDecoに加入していました。元勤務先に企業年金制度が全くなかったため、新卒で入社した年の9月から始めました。その当時はまだ年収が低かったのですが、NISAは始めていなかったので上限金額の月23,000円を拠出していました。
入社4年目の途中で元勤務先が企業型DCを導入してからは、三菱UFJ銀行の企業型DCに月8,000円、iDecoに月7,000円を並行して拠出していました(合計の拠出金額を減額したのはふるさと納税の上限金額などを考慮したためです)。
合わせると、約3年半のトータルの拠出金額は979,000円になります。
楽天証券のiDecoに移換した際(海外転出時)の運用商品とその保有割合(簿価構成比)は次の通りです。
- 030:楽天全米INDEX楽天DC(56.3%)
- 003:ONEたわら225楽天DC(17.6%)
- 011:ONEたわら先進国株楽天DC(13.7%)
- 031:楽天全世界INDEX楽天DC(10.5%)
- 015:ONEたわら先進国債楽天DC(1.7%)
iDecoについては一度だけスイッチングを行い、年収の増加に応じて株式の配分比率を高めた経緯があります。企業型DCについては運営管理機関が三菱UFJ銀行だったため、楽天証券の商品とは異なる運用商品を運用していた期間がありましたが、今回は省略します。
現時点の評価損益
いよいよ結果発表ですが、2024年6月末時点の評価損益は次の通りです。
商品名 | 取得金額 | 時価評価額 | 時価構成比 | 評価損益 | 評価損益率 |
---|---|---|---|---|---|
楽天全米INDEX 楽天DC | ¥551,960 | ¥1,255,906 | 62.2% | ¥703,946 | 127.5% |
ONEたわら225 楽天DC | ¥172,840 | ¥332,168 | 16.5% | ¥159,328 | 92.2% |
ONEたわら先進国株 楽天DC | ¥134,604 | ¥240,745 | 11.9% | ¥106,141 | 78.9% |
楽天全世界INDEX 楽天DC | ¥103,344 | ¥167,821 | 8.3% | ¥64,477 | 62.4% |
ONEたわら先進国債 楽天DC | ¥17,046 | ¥22,077 | 1.1% | ¥5,031 | 29.5% |
未算入手数料 | ー | ー | ー | ▲¥396 | ー |
合計 | ¥979,794 | ¥2,018,717 | 100.0% | ¥1,038,527 | 106.0% |
途中でスイッチングを行ったり企業型DCから移換された資産が混じっていたりで各運用商品の純粋な利益率を反映してはいませんが、1番上の資産全体の60%以上を占める「楽天全米INDEX楽天DC」が最も大きく寄与していることがわかります。
資産総額については、約6年間で拠出金額のなんと2倍以上になっています!コロナショックの際にも拠出を続けたことが利益率の高さにつながっていると考えられます。
あと定年まで30年近くあるため、仮にこのペース(6年ごとに2倍)で資産が増え続けるのであれば、今後いっさい資産を拠出しない場合でも定年時点で資産総額が現時点の評価額の25倍の6,400万円になることになります(笑)株式のリターンと複利の効果は素晴らしいですね!!
実現した節税効果(推定値)
iDecoの場合は拠出時の年収(所得金額)に応じて節税率が異なります。4年間の年収は400〜800万円で推移したため、簡易的に平均値の600万円を使用して算出すると、節税効果は約172,200円と算出されます。
861,000(合計拠出金額)× 約20%(所得控除率) = 約172,200円
一方、企業型DCの場合は拠出金額に対する約15%の社会保険料が控除されるため、節税効果は約17,700円と算出されます。
118,000円(合計拠出金額)× 約15%(所得控除率) = 約17,700円
したがって、合計で約189,900円の節税効果を得ることができたと推定されます。
[補足]ドイツの企業年金について
ドイツでも日本と同様に少子高齢化が進んでおり、公的年金の財源が逼迫して給付水準が低下していることから、一般に公的年金だけで老後の生活を支えるのは難しいと考えられています。
それを補完するものとして、日本の企業型確定拠出年金にあたるドイツの「企業年金(betriebliche Altersvorsorge)」への加入が有効だと言われています。
【海外生活記】ドイツ収入 2024 でもお伝えした通り、ドイツでの収入(給料)にかかる所得税と社会保険料の割合はかなり高いので、掛け金額が所得控除の対象になることは大変メリットが大きいです。この場合、社会保険料を半分負担している企業側の負担も減るのですが、なんと企業によってはその分の利益を従業員の掛け金に上乗せしてくれるところもあります。
例えば、月給(額面)€3,000の中から€100を掛け金として企業年金に支払う場合、ドイツでも所得税については累進課税制度が採用されているため、給料の中の最後の€100に対する所得税と社会保険料の合計は40%程度にのぼります(高収入の方はさらに高い比率になります)。このことは、掛け金として額面から€100を支払う場合でも、実際に減る手取り額は€60程度にまで減ることを意味します。また、企業によっては企業が負担している20%程度の社会保険料を掛け金に上乗せしてくれるので、実際に企業年金に払い込まれる保険料の合計金額は€120相当になります。したがって、たとえ運用商品の利益がほとんど出なかったとしても、企業年金に拠出するだけで年金資金が€60から€120へと約2倍に増えるのです!
ただし、年金受給開始年齢(現時点では63歳)まで受け取れないことと、年金受給時には公的年金に上乗せして受け取る金額が増える分、源泉徴収される税金が多少増えることには注意が必要です。
さらに、加入時にそれなりの手数料が引かれるため、少なくとも3〜5年程度は掛け金を拠出し続けないと、トータルでマイナスとなる可能性があります。ドイツに今後何年いるかまだわからないという方は、安易に加入しない方が良いでしょう。
また、加入する際には運用商品をご自身で選ぶことになりますが、基本的にドイツ語の資料しかないため、過去の運用成績や運用手数料に加え、自分にとって不利益な条件が付いていないかなど、可能であればドイツ人の知り合いに確認してもらうのが良いと思われます。
*** ドイツでの収入や手取りの目安に関しては次の記事をぜひご覧ください ***
おわりに
今回の記事を作成するにあたり改めて最新の確定拠出年金制度を確認することになりましたが、私たちがドイツへ移住した後にも様々な改正が行われており、知らなかった点がいくつもあることに驚きました。これからも制度が(基本的には私たちにとって有益な方向へ)改正され続けることが予想されるため、もう少し頻繁にチェックしていきたいと思っています。
運用成績については、自分が制度に加入した当時に想定していた倍以上のスピードで資産が増えており、まだ年収が低かったあの時に勇気を出して加入していて本当に良かったと思っています。過去の自分を褒めてあげたいです(笑)
今日本で盛り上がっている新NISA制度は国内居住者限定の制度であるため、海外居住者の方で日本円の余裕資金があるという方は確定拠出年金への継続加入を検討してみてもよいかもしれません。
今回の記事が少しでも今後の皆さんの資産形成のお役に立てれば幸いです。
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